Real-Space Wavefunction Analysis
Multiwfn
電子密度とその導関数から相互作用領域を可視化するNCI、IGM、IGMH、IRIを、定義と使い分けから整理します。
- 位置づけ
- 波動関数・実空間関数解析
- 主な入力
- fchk、wfn/wfx、molden、cube、XYZ
- 主な出力
- grid data、cube、critical points、図用script
1. 概要
Multiwfnは軌道、電子密度、静電potential、topology、population、弱い相互作用などを解析する多機能programです。この章では、反応選択性に関係する立体・電子的な接触を実空間で調べる四つの可視化法に焦点を当てます。
等値面の色や面積は相互作用領域を示しますが、それだけで厳密な安定化energyを与えません。geometry、relative energy、SAPT/EDA、QTAIM等と組み合わせます。
2. 入力fileと三次元grid
Gaussianの.fchk、一般的な.wfn/.wfx、Molden形式等からbasisとorbitalを読み、空間座標 r 上で密度と導関数を評価します。
formchk calculation.chk calculation.fchk
Multiwfn calculation.fchk- 範囲分子全体と解析対象の接触領域を含める。
- spacing細かいほど滑らかだが、計算時間とcube容量が増える。
- 座標系分子比較ではalignment、origin、axis、grid数を統一。
- densitywavefunction由来かpromolecular approximationかを明記。
Multiwfnのmenu番号はversionで変化し得るため、使用版の起動画面に表示される機能名と付属manualのsectionを基準にします。
3. NCI: Reduced Density Gradient
NCI解析は電子密度ρとreduced density gradient(RDG)sから、低密度かつ低勾配の非共有結合性相互作用領域を抽出します。
密度Hessianの固有値を λ1 ≤ λ2 ≤ λ3 とし、sign(λ2)ρで等値面を着色します。
| sign(λ2)ρ | 典型的解釈 | 一般的配色 |
|---|---|---|
| 負 | 引力的density concentration | 青 |
| 0付近 | 弱いvdW・分散的接触 | 緑 |
| 正 | 立体反発的density depletion | 赤 |
色の境界は可視化範囲に依存します。同じ青でも異なるscaleなら比較できません。
4. IGM: Independent Gradient Model
IGMでは、原子またはfragment density gradientを互いに相殺させずに足した仮想的なgradient normと、実際にvector和したgradient normとの差を用います。
δginterでフラグメント間、δgintraでfragment内の相互作用を分けられることがNCIに対する重要な利点です。元来のIGMでは独立原子・fragment densityに基づく近似の影響を受けます。
5. IGMH: Hirshfeld partition
IGMHは実際の分子電子密度をHirshfeld partitionで原子寄与へ分け、その原子density gradientからIGM型のδgを構成します。
wavefunctionに含まれる分極を利用し、original IGMで見られる過度に膨らんだ等値面を改善することを目的とします。fragment定義によりinterとintraを分離できます。
- δginter指定フラグメント間の相互作用領域。
- δgintra各fragment内部の結合・非結合性接触。
- sign(λ2)ρ coloring相互作用領域の引力・反発的性質。
- δG integration定義したdomain内の定量指標。energyではない。
6. IRI: Interaction Region Indicator
IRIはdensity gradientをdensityのpowerで重み付けした単純な実空間関数です。標準定義ではa=1.1が用いられます。
NCIが主に弱い相互作用領域を示すのに対し、IRIは適切な等値面で共有結合と弱い相互作用を同じ図に表しやすい設計です。IRI等値面にもsign(λ2)ρをmappingできます。
7. NCI・IGM・IGMH・IRIの使い分け
| 方法 | 必要情報 | 強み | 注意 |
|---|---|---|---|
| NCI | electron densityまたはpromolecular density | 標準的で比較例が多い | フラグメント間・内の分離が直接的でない |
| IGM | 原子/fragment density | inter/intra分離、低コスト | density modelの近似 |
| IGMH | wavefunction由来density | 分極を含み、inter/intra分離が明瞭 | Hirshfeld partitionとfragment定義に依存 |
| IRI | electron density | 共有結合と弱い相互作用を同時表示 | fragment分離を主目的としない |
反応選択性の解析では、まずIGMHで反応中心と置換基・catalyst間のfragment相互作用を分離し、IRIで結合領域を含む全体像を補う構成が考えられます。
8. 実行と検証
- wavefunctionを検証
電荷、spin、geometry、SCF convergenceを元出力と照合。 - 解析法とfragmentを定義
NCI/IGMH/IRIの目的とatom assignmentを保存。 - gridを固定
範囲、spacing、origin、axis、単位を記録。 - cubeを出力
等値面用fieldとcoloring用sign(λ2)ρを同一gridで作成。 - 表示条件を固定
isovalue、カラーレンジ、orientationを比較対象間で揃える。
「20→1→3」のような番号列だけではversion更新後に再現できません。Multiwfn version、機能名、全入力、fragment、grid、生成file名を記録します。
9. 公開データで試す
このサイトで生成したアセトンと水二量体のファイルを使い、入力形式ごとにMultiwfnで可能な操作を確認できます。再計算できる物理量は、ファイルに波動関数情報が残っているかで変わります。
軌道・basis情報から電子密度や導関数を再評価し、NCI・IGMH等を実行します。
既に計算された三次元場を読み込み、grid dataとして検査・加工・比較します。
等値面と色を操作します。viewer自体は波動関数解析を行いません。
| 公開ファイル | Multiwfnで試す内容 | 解釈上の注意 |
|---|---|---|
| Acetone density Cube | Multiwfn acetone-density.cubegrid情報の確認と、読み込んだscalar fieldの処理。 | Cubeには元のbasis・軌道係数がないため、新しい軌道解析はできません。 |
| HOMO Cube / LUMO Cube | 正負の値、節、grid範囲、等値面を比較。 | 軌道energyや占有数はCube単独から復元できません。 |
| Water-dimer WFN | Multiwfn water-dimer.wfn弱い相互作用の可視解析からNCI・IGMHを選択。 | density model、fragment、grid、isovalueを記録します。 |
| RDG Cube / signed-density Cube | NCIplot出力をgrid dataとして読み、同一gridか確認して可視化結果と比較。 | この2つはNCIplotの結果です。NCI解析を最初から再実行する入力にはWFNを使います。 |
最近のMultiwfnでは、wavefunctionからのNCI・IGMHは主機能20、読み込んだgrid dataの処理は主機能13が入口です。表示されたmenu名を確認し、使用versionと選択経路を記録してください。
計算条件は各directoryのmetadata.jsonに保存しています。Multiwfnで再出力したCubeを比較するときは、原点、axis vector、shape、単位を先に照合します。
10. 参考文献・公式資料
- Multiwfn, Official site / Quick start.
- T. Lu and F. Chen, “Multiwfn,” J. Comput. Chem. 2012. DOI
- E. R. Johnson et al., “Revealing Noncovalent Interactions,” J. Am. Chem. Soc. 2010. DOI
- C. Lefebvre et al., “Independent Gradient Model,” Phys. Chem. Chem. Phys. 2017. DOI
- T. Lu and Q. Chen, “IGMH,” J. Comput. Chem. 2022. DOI
- T. Lu and Q. Chen, “Interaction Region Indicator,” Chemistry–Methods 2021. DOI